祖父の通夜の話 (2021年12月)

もうひとつ父親の暴言を思い出した。

祖父(母の父)の通夜が祖父の家で行われる前、8畳2間ぶち抜きくらいのスペースに親戚が何十人も集まり、なんとなく雑談していた。

私は父親の近くに座っていて、父親が伯父に、なんの話をしていたか知らないが、突然「母親のせいで子どもたちみんなおかしくなっちゃった。みんな!」と訴えるのを聞いた。

父親が話していた相手は、その「母親」の兄なんですけど。そもそも「みんなおかしくなっちゃった」の意味するところに心当たりはないものの、その誹謗中傷の対象である私がそれが聞こえる位置にいたのに気づかなかったのか気にしなかったのか。

通夜が始まる前になって、伯父が父親に「それじゃ、ひとつ挨拶お願いしますよ。校長先生!」 と促した。

父親はおもむろに立ち上がり、親戚一同の前で、故人の人徳をたたえた上で、故人にはこのように多くの子や孫がいて皆それぞれに違っていてそれぞれにいいところがある、と話した。

父親は小学校の校長だったので、いつどこで「校長先生のお話」を依頼されても、心にもないスピーチができるストックを持っていたのだろうと推察される。

通夜には、近所に住んでいた祖父の友だちがきて焼香した。遺影を見上げ、感極まって「早すぎるよ……早すぎるよ!」と叫んだ。

80代での病死を「早すぎる」と悲しんでくれる友だちがいて、祖父は幸せだったのだなと思った。それとともに、この日はじめて優しい心からの言葉が聞けて、私は安堵した。

2021/12/10記

〈解説〉断片的な記憶

余談ながら、その後しばらくつきあってた人に、タバコはやめた方がいいと言った時、この祖父がヘビースモーカーでがんで死んだことを話すと、何歳だったか聞かれ、「はちじゅう……」と答えかけたら、「こりゃあ可笑しい。タバコのせいで80代で死ぬんだ。ゲラゲラゲラ」と、たとえ大往生だろうと人の親族の死で大笑いするその人も、いま思えばひとでなしだったな。

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