(第304話ネタバレ注意) 尾形の動機(らしいもの)とゴールデンカムイにおける父親に関する簡単な感想 (2022年1月)

ガチ勢でもない私ごときがゴールデンカムイの感想を書くのはおそれ多いが、ビックリしてつい書いてしまった。

(サムネによるネタバレ回避のための△) △△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△

(以下ネタバレを含む感想)
















尾形の衝撃発言

ゴールデンカムイ、私は2021年秋の全話公開から読み始めた。最終章ということはもうすぐ最終回なんだろうと、2022年1月現在まで更新されるたびヤンジャンアプリで読んでいる。アイヌの金塊を奪おうとする陸軍第七師団の鶴見中尉が嫌いで、早く退場してほしい(無理だが)、とか実をいうと殺伐とした殺し合いの話は好きではないので早く終わってほしいとか思いながら読んでいる(なぜ読む)。

そういうわけで各キャラに対する思い入れもないんだが、にもかかわらず2022年1月27日更新の「第304話 歴史」には「なんだそれ」と衝撃を受けた。

尾形上等兵は読者の人気が高いミステリアスなスナイパーで、金塊争奪戦に参加している理由、謎めいた行動を繰り返す理由が不明だった。304話で上官の鶴見に対し理由を示唆する発言があった。

尾形「あなたはこのまま表舞台から消えて 私の出世のために全力で働くしかない」
鶴見「…やはり 第七師団長の肩書が欲しいのだな」

鶴見「邪魔ばっかりして 引っ掻き回して 私が追い詰められるのを待ってたわけか?」
尾形「あなたが満州だの ウラジオストクだの アヘンだの 鯉登少尉だの 月島軍曹だの 宇佐美上等兵だの キョロキョロよそ見ばかりしているからでしょうが!!」

はい?

ミステリアスなキャラが謎めいた行動を繰り返す理由が、上官に自分だけを見てほしかったから? あと、自分が陸軍第七師団長になるため鶴見は全力で働け? これまで何年も尾形の動機で引っ張られてきた読者が、拗らせとか出世とかの矮小な動機で納得するんだろうか。他にこのあともっと意外な理由が出てきたりしないのか。

だって、
ウイルク(アシリパの父)の野望: 北海道独立
鶴見の野望: 北海道と極東独立
に対して、
(数年越しに明かされた)尾形の野望: 第七師団長になりたい
だとしたら小規模すぎてバランスが悪くないか。

鶴見の父親性

と思ったが、もしかしたら作品のひとつの軸的にみたらOKなのかもしれない。

先ほどのやり取りの後に、子どもの頃の尾形が母親に自分が獲ってきた鴨を見てほしいと訴える回想が入る。母親は尾形に「お父っつぁまみたいな立派な将校さんになりなさいね」と告げる。今回明かされた尾形の野心は、父親の花沢中将と同じ第七師団長の地位を得ることだ。

母親が父親しか見なかったから、尾形は父親(花沢中将)になりたい、ということだろうか。花沢中将は芸者だった尾形の母親を捨てた。

ゴールデンカムイの物語のひとつの軸に「父親」がある。その中心は父親としての鶴見だ。

鶴見は以前、スパイとして活動していたロシアで身元を偽って結婚し子どもがいたが妻子は銃撃で死ぬ。父親性を奪われた鶴見はその後、部下を手なづけるのに部下のために父親性を補完するような行動を取る。父親を殺した月島を獄から出して部下にする。鯉登と父親の関係を修復させ自分に心酔させる。尾形に父親を殺させ、第七師団が尾形を担ぎ上げるであろうと示唆する。

一方、作中では鶴見の、妻子を死なせた銃弾を撃ったウイルクに対する激しい憎悪と、ウイルクの娘アシリパに対する複雑な感情と執着が描写されている。

ウイルクはゴールデンカムイの金塊争奪騒動の元凶で、網走監獄で尾形により射殺される。

その後、五稜郭の攻防でパルチザンのソフィアはアシリパに「アシリパ! ウイルクの愛する娘! でも…未来はあなたが選んで!!」と告げ、アシリパを金塊とアイヌの未来に関する父親の呪縛から解放しようとする。直後、鶴見がソフィアを射殺する。

鶴見の動機のひとつが、奪われた父親性の回復であるのなら、鶴見の欠損を最終回までに何らかの方法で埋めることができる位置にいるのはアシリパなのではないか。私は鶴見が嫌いだから、鶴見が救われるような展開は嫌だけれども。

そして父親がテーマのひとつに据えられていることが、おそらく、私がゴールデンカムイをもうひとつ好きになれない理由の一部なのだけれども。

2022/1/27記

〈解説〉漫画の感想

蛇足

ゴールデンカムイは4月に完結して、尾形は最終回のひとつ前の回に死亡したわけだが、それについて今更ながら思い出したこと。

親に対する子どもの気持ちっていうのは「自分を愛してほしい」ならまだ健全なんだが、往々にして「自分〈も〉愛してほしい」だったりするのが厄介だ。その点についての尾形の描き方はリアルだと思った。

7/27追記

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